インプラント治療を受けた方にとって注意すべき疾患のひとつが「インプラント周囲炎」です。 インプラントそのものは虫歯になりませんが、周囲の歯ぐきや骨は天然歯と同じように炎症を起こすことがあり、放置するとインプラントの脱落につながることもあります。 早期発見と適切な対処によって進行を防ぐことができますので、まずは正しい知識を持つことが大切です。
Recoveryインプラント周囲炎の治療について
「インプラントの周りが腫れてきた」「出血が続く」「違和感がある」それは、もしかすると『インプラント周囲炎』かもしれません。
インプラントも天然歯と同じように、ケアを怠ると炎症を起こし、最悪の場合は抜けてしまうこともあります。
当院では、インプラントを長く快適に使っていただくために、インプラント周囲炎の早期発見・治療、そして予防を重視しています。症状に心当たりのある方は、ぜひ一度ご相談ください。
インプラント周囲炎とは?

インプラント周囲炎は「人工歯の歯周病」
インプラント周囲炎は、インプラントのまわりの歯ぐきや顎の骨に炎症が起こる疾患です。 天然歯でいう「歯周病」とよく似た経過をたどり、初期段階では歯ぐきの腫れや出血が見られ、進行すると骨が吸収されてインプラントがグラついたり、最終的には脱落してしまうこともあります。 インプラントは神経がないため痛みを感じにくく、気づいたときにはかなり進行しているケースも少なくありません。
インプラントと天然歯の違い
天然歯は歯根膜というクッションのような組織によって骨とつながっており、細菌の侵入に対する自然な防御機構が備わっています。 一方、インプラントは骨に直接埋め込まれているため、防御力が弱く、細菌感染が広がりやすい構造になっています。 そのため、天然歯以上に日々のセルフケアと、歯科医院での定期的な管理が重要になります。
インプラント周囲炎とインプラント周囲粘膜炎
インプラント周囲炎は突然発症するわけではなく、インプラント周囲粘膜炎という一つ手前の症状を経て発症します。
インプラント周囲粘膜炎との違い
※表はスクロールできます。
病名 | 炎症の範囲 | 骨の吸収 | 治療の難易度 |
---|---|---|---|
インプラント周囲粘膜炎 | 歯ぐきのみ | なし | 回復しやすい |
インプラント周囲炎 | 歯ぐき+骨 | あり | 難易度が高い |
「インプラント周囲粘膜炎」は、インプラント周囲の歯ぐきに限局して炎症が起きている状態を指します。つまり、この段階ではまだ骨の吸収は見られず、適切な処置を行えば回復が可能です。 しかし、粘膜炎を放置してしまうと、炎症が深部に進行して骨にまで及び、「インプラント周囲炎」に移行してしまいます。骨にまで炎症が及ぶと、非常に治療が難しくなります。このため、粘膜炎の段階で早期に対応することが、インプラントを守るためには非常に重要です。

インプラント周囲粘膜炎
インプラント周囲炎の原因
どのようにして発症するのか?
インプラント周囲炎の根本的な原因は「プラーク(細菌のかたまり)」の蓄積による感染です。
プラークが蓄積する原因としては、主に以下が挙げられます。
・日常での歯磨きなどのケアが不足している
・インプラントが歯磨きをしにくい形態になってしまっている
・定期的な歯科医院でのプロフェッショナルケアを受けていない
・インプラントの被せ物(歯冠)が緩んできている
ただし原因はこれだけでなく、噛み合わせや生活習慣、体の状態など複数の要素が重なり合って発症・悪化するケースも多く見られます。
(1)プラークの蓄積・清掃不良
インプラントの周囲にプラークが溜まると、歯ぐきに炎症が起こります。
インプラントは天然歯と違って細菌へのバリア機能が弱いため、わずかな清掃不良でも歯周病のように炎症が進行しやすくなります。
特に歯間やインプラントの接合部など、ブラッシングが行き届きにくい部位に汚れが残ることが発症の引き金になります。
(2)インプラントの形態や埋入位置による清掃性の悪化
インプラントの形状や装着された被せ物(上部構造)のデザイン、あるいは埋入位置が不適切である場合、セルフケアがしにくくなり、プラークがたまりやすくなります。
特に奥歯のインプラントや、深く埋め込まれすぎた症例では、ブラシが届きにくく清掃不良に陥りがちです。
このような構造的な要因によって清掃性が低下すると、プラークが蓄積し、インプラント周囲炎の発症リスクが高まります。設計段階での精密な治療計画と、治療後の専門的なメンテナンスが重要となります。
(3)インプラントの被せ物(歯冠)の緩み
インプラントの被せ物には
・セメント固定式
・ネジ固定式
があります。このネジ固定式の場合は噛み合わせの間に徐々に緩んでくることがあります。緩んでしまった被せ物の隙間には食べカスやプラークが蓄積するため、炎症が起こる原因となり、その部分からインプラント周囲炎を発症することがあります。
(4)歯ぎしりや噛み合わせの不調和
過度な咬合力(噛む力)は、インプラントに負担をかけ、周囲の組織を傷める原因になります。
歯ぎしりや食いしばりが強い方、噛み合わせにずれがある方は、インプラント周囲炎のリスクが高まるため注意が必要です。
ナイトガードの使用や噛み合わせの調整によって負担を軽減することが大切です。
(5)喫煙・糖尿病などの全身的なリスク因子
喫煙は歯ぐきの血流を悪化させ、免疫反応を弱めるため、インプラント周囲炎の発症・進行リスクを大きく高めます。
また、糖尿病や骨粗しょう症などの全身疾患を抱えている場合も、感染に対する抵抗力が弱くなる傾向があります。
インプラント治療前後の体調管理や生活習慣の見直しも、長期的な成功には欠かせません。
インプラント周囲炎の症状
インプラント周囲炎は初期段階では自覚症状が少ない一方、進行すると急速に骨を失い、最終的にはインプラントの脱落につながることもある重大な疾患です。
ここでは、インプラント周囲炎の進行段階ごとの主な症状を解説します。
早期発見のためにも、違和感があれば早めに歯科医院を受診しましょう。

初期〜重度で異なる症状
インプラント周囲炎の症状は、炎症の進行度によって異なります。
※表はスクロールできます。
ステージ | 骨の状態 | 主な症状 | 回復可能性 |
---|---|---|---|
0(粘膜炎) | 骨吸収なし | 出血・腫れ | 高い |
1(初期) | わずかに吸収 | 違和感・膿 | 中〜高 |
2(中等度) | 明らかに吸収 | 膿・口臭 | 中程度 |
3(重度) | 著しい吸収 | 動揺・露出 | 低い(撤去も検討) |
以下では、進行度別に具体的な症状を確認していきます。
インプラントが安定しにくい
・歯ぐきのみに軽い炎症が起きている段階です。
・ブラッシング時の軽い出血や歯ぐきの赤みが見られます。
・まだ骨の吸収はなく、この段階での治療により回復が可能です。
【ステージ1】初期のインプラント周囲炎
・歯ぐきの腫れに加えて、インプラントを支える骨にわずかに吸収が始まっています。
・軽度な違和感や、歯ぐきからの膿が見られることもあります。
・レントゲンでの骨の変化や歯周ポケットの深さから判断されます。
【ステージ2】中等度のインプラント周囲炎
・骨の吸収が明確に進行し、インプラント周囲の歯ぐきが下がってくることもあります。
・膿の量が増え、口臭や不快感を強く自覚することが多くなります。
・ブラッシングでは出血が止まらず、骨の約半分が失われていることもあります。
【ステージ3】重度のインプラント周囲炎
インプラント周囲の骨が著しく吸収され、インプラントが動揺します。
最終的にはインプラント体の露出や、自然脱落に至るケースもあります。
ここまで進行すると、保存が困難な場合も多く、インプラント撤去が必要になることがあります。
インプラント周囲炎に関しては進行具合によって対応が全く変わります。
対応が早ければ、簡単な処置で終われますし、遅くなると外科的な処置が必要になる、もしくはインプラントの撤去を検討しなければならなくなります。
ただ、症状が出た時にはすでにステージ2の中程度のインプラント周囲炎にまで進行してしまっていることもあるために、早期発見には定期的な歯科医院の受診とレントゲン撮影などが必須になります。
ここで私からインプラントを受けたことのある患者様方へのメッセージは
・インプラントには定期的なメインテナンスが必須
・無症状であっても、定期的にレントゲンや精密な検査が必要
・治療が必要な場合は、早ければ早いほど治せる可能性が高くなる
・かかりつけでの診断が不安であれば、セカンドオピニオンも使うべき
になります。
当院では他院で治療を受けられた患者様の治療のやり直しや、セカンドオピニオン、インプラント周囲炎の治療も積極的に行っておりますので、不安に感じていらっしゃる患者様はぜひ一度クリニックにいらっしゃってください。

インプラント周囲炎・周囲粘膜炎の発症率
そうはいっても、インプラントをした部分に痛みがなければなかなか歯科医院に行くことも少ないですし、まさか自分のインプラントがインプラント周囲炎になっているなんて思わないですよね。
残念なことに、インプラント治療のメインテナンスの大切さをきちんと伝えていない歯科医院もあるようです。

ここではインプラント周囲炎やインプラント周囲粘膜炎の発症率(罹患率)についてご説明致します。
様々な論文を紐解くと、インプラント治療を受けられた患者様の中でインプラント周囲炎に罹患している患者様の確率は
・インプラント周囲粘膜炎の罹患率は46.8%
・インプラント周囲炎の罹患率は19.8%
と報告されています。
ただ、インプラント周囲炎の定義がまだ不明確なので、論文によってインプラント周囲粘膜炎やインプラント周囲炎の罹患率に差はありますが、約半数近くの患者様がインプラント周囲粘膜炎に罹患しており、このまま放置しているとインプラント周囲炎へ進行してしまう可能性があるということになります。
インプラント周囲炎の治療法
続いてはインプラント周囲粘膜炎・インプラント周囲炎の治療方法について解説をしていきます。
インプラント周囲炎の治療は、その進行度や炎症の範囲によって方法が異なります。
初期の段階では比較的簡単な処置で改善が期待できますが、進行している場合には外科的な治療や再治療が必要になることもあります。
ここでは、進行度別に代表的な治療方法を解説いたします。

進行度に応じた治療アプローチ
軽度(粘膜炎・初期周囲炎)の治療:クリーニングと薬剤
まだ骨の吸収が見られない、あるいはごく初期の骨吸収にとどまっている場合には、専門的なクリーニング(PMTC)や抗菌薬の塗布・投与によって改善が見込めます。
また必要に応じて、被せ物の形の修正が必要であれば、再作成を進めることもあります。
基本的にはプラーク除去とホームケアの見直しを徹底し、再発防止に努めることが大切です。
初期段階であれば失われた骨の吸収も回復する可能性があるので、早期発見が一番大切になります。

中等度の治療:機械的除去と再評価
中等度に進行した場合には、プラークや歯石を除去するだけでなく、インプラント体の表面についたバイオフィルムを特殊な器具で除去する「デブライドメント(機械的清掃)」を行います。
インプラント体を徹底的に綺麗にするためには専用の機械を用いることが必要とされるため、難易度は高くなります。
あわせて歯ぐきの状態や骨の吸収量を精査し、今後の治療方針を再評価します。

重度の場合:外科的処置・骨再生療法
インプラント周囲の骨が大きく失われている重度の周囲炎では、歯ぐきを開いてインプラント体表面や周囲組織に付着した感染部位を除去し、インプラント表面の除染と周りの骨再生療法(再生材料の填入)を行う必要があります。
ただ、インプラント表面の完璧な除染は非常に難易度が高く、成功率も低くなります。
ですので状態によっては、インプラント体の除去を検討する場合もあります。

再治療を見据えた戦略的撤去と再埋入
周囲組織の再生が難しく、周囲の骨や組織に強いダメージがある場合には、一度インプラントを撤去し、患部が落ち着いてから、骨の造成と、インプラントの再埋入するという選択肢もあります。
無理に残して、感染が残った状態を維持するよりも、一度撤去することで将来的な成功率を重視した柔軟な判断が必要です。
しかし、短期的にはその部位での食事が困難となるため、患者様との綿密な治療計画の立案が求められます。

インプラント周囲炎の治療法
主なインプラント周囲炎の原因はプラークを主とした細菌感染に原因があると言われております。
しかし、この細菌以外にもインプラント周囲炎を増悪する要因があるので、要注意になります。
この要因に関しては全身的な因子と、局所的な因子に分けられるのでそれぞれについて説明していきます。
全身的な因子
- 喫煙
- 糖尿病
- 骨粗鬆症
- 免疫抑制状態
局所的な因子
- 口腔清掃状態
- 残存歯の歯周病の状態
- インプラントの埋入位置
- 補綴部(被せ物)の形態
- 余剰セメントの残存(セメント固定の場合)
- 歯ぎしりや噛み締めなどの噛み合わせの過剰な力
上記に示すように、インプラントの清掃不良以外にもインプラント周囲炎になってしまう因子は様々あります。
特にタバコや糖尿病とインプラントの相性は悪いので、要注意です。

インプラント周囲炎の予防法
インプラント周囲炎は、一度発症してしまうと治療が難しく、最悪の場合インプラントを失うことにもつながります。
だからこそ、最も重要なのは『予防』です。日々のセルフケアと歯科医院での定期管理を組み合わせることで、インプラントを長持ちさせることができます。
ここでは、当院が考える効果的な予防法をご紹介します。

毎日のセルフケアと歯科でのメンテナンスが鍵
インプラント専用のケア用品を活用する
インプラントの周囲は天然歯と比べて清掃が難しいため、専用の歯ブラシやフロス、歯間ブラシ、タフトブラシなどの補助清掃用具を活用しましょう。
磨き残しを防ぐためには、部位に応じた適切なツールの選択と使い方が大切です。当院では、患者様一人ひとりに合わせたホームケア指導を行っております。
歯科医院での定期的なメンテナンス
インプラントを長く使い続けるには、歯科医院での定期的なメンテナンスが不可欠です。
目安として3ヶ月〜6ヶ月に一度、専用器具によるクリーニングや状態チェックを受けることで、周囲炎の早期発見・早期対応が可能になります。
セルフケアでは取りきれない汚れも、プロフェッショナルケアでしっかり除去します。
生活習慣とリスクの管理
喫煙はインプラント周囲炎の大きなリスクになります。禁煙によるインプラント周囲炎の予防効果は非常に大きいため、当院では治療前後の禁煙指導を行っています。
また、糖尿病などの全身疾患がある場合には、内科との連携を図りながら血糖コントロールを安定させることも重要です。
体の健康状態を整えることが、インプラントの健康維持にも直結します。
当院のインプラント治療とサポート体制
当院では、インプラント治療を「入れて終わり」ではなく、その後の健康な状態をどれだけ長く維持できるかを重視しています。
治療前からリスクを見極め、治療中は精密な処置を行い、治療後は継続的なサポートでインプラントを長期的に守る体制を整えています。
専門医による精密な診査と設計
当院では、インプラントの埋入位置や角度、被せ物の形態などを事前にCT画像で精査し、将来的な清掃性・噛み合わせ・骨への負担までを考慮した設計を行っています。
これにより、インプラント周囲炎の原因となりやすい「清掃不良」や「咬合ストレス」を未然に防ぎます。

治療後のメンテナンス・定期検診
インプラント治療後は、必ず定期的なメンテナンスを受けていただきます。
当院の歯科衛生士はインプラントのメインテナンスをきちんとせ術するためのトレーニングを受けております。
また当院では、専用の器具を用いたインプラントのクリーニングと、周囲の歯ぐき・骨の状態のチェックを定期的に実施しています。
定期的にレントゲンを撮影することにより、目には見えない異常にもいち早く気付くことができるようなメインテナンスコースをご準備しております。
異常があれば早期に対応できる体制を整えております。

万が一のトラブルにも迅速に対応
インプラントの不調を感じた際は、速やかに診査・処置を行えるよう予約を柔軟に確保しています。
「インプラントが揺れてきた」「歯ぐきが腫れてきた」といった症状が出た場合でも、早期対応により、重症化を防ぐことが可能です。

患者様ごとの予防プログラムを提供
全身の健康状態や生活習慣、セルフケアの傾向などをもとに、患者様一人ひとりに合った予防プログラムをご提案しています。
必要に応じて、治療開始前からお口の中の細菌叢の検査も行います。
口腔内の状態を長期的に安定させることで、インプラントを快適に使い続けていただくことが私たちの使命です。

このように、当院では治療前・治療中・治療後のすべての段階においてインプラント周囲炎の予防と早期対処に力を入れております。少しでも気になる症状がある方、他院でトラブルを指摘された方も、ぜひ一度ご相談ください。
他院で治療を受けた方のメンテナンスも承ります
当院では、他院でインプラント治療を受けられた方のメンテナンスやトラブル対応にも対応しております。「引っ越しで通院できなくなった」「かかりつけ医院ではメンテナンスだけの受診が難しい」など、様々な理由でお困りの方も多くいらっしゃいます。
当院では、インプラントの種類や治療歴にかかわらず、状態をしっかりと診査・記録し、継続的なケアが行えるようにいたします。必要があればレントゲン・CTを用いて骨や歯ぐきの状態を確認し、今後のメンテナンス方針を丁寧にご説明いたします。
まずはお気軽に「メンテナンスだけ希望」とお伝えのうえ、ご相談ください。
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診療時間 | 月 | 火 | 水 | 木 | 金 | 土 | 日 |
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