26/03/13
親知らずの移植(自家歯牙移植)とは?成功率・寿命・条件を歯科医師が徹底解説

目次

歯を失った際の治療法として一般的にはブリッジ、入れ歯、そしてインプラントが挙げられますが、第4の選択肢としてご自身の歯を移植する「自家歯牙移植」があることをご存知でしょうか??
この方法は親知らずなど、噛み合わせに関与しない歯を用いて、抜歯が必要となる部位に移植をする方法となります。
抜歯の部位に余っている親知らずを移植できるというこの治療法はとても素晴らしい選択肢になるのですが、このコラムではどのような場合に、この自家歯牙移植という治療法を採用できるのかを解説していきます。

上で述べた歯の移植手術の成功の鍵となるのが「歯根膜」になります。
歯根膜とは歯と骨の間を繋ぐ”クッション”のような役目を果たす繊維であり、この歯根膜があることで移植した歯は移植後も再び骨と結びつき、機能を果たすことができます。
つまりこの歯根膜がなければ歯の移植は成功しないということになります。
歯根膜がない状態でも歯と骨が結合することもあり、これは「アンキローシス(骨性癒着)」と呼ばれます。この状態は歯根膜を介さない状態となってしまうので、あまり良い状態ではありません。
移植後の歯は、歯根膜を介してきちんとクッション機能を維持した状態での生着が必要になります。

この画期的な親知らずの自家歯牙移植ですが、誰もが受けられる治療ではありません。
患者様の年齢や生活習慣、また移植する歯のコンディションなどで結果は左右されるため、注意が必要になります。
まずは健康な親知らずが残っていることが大前提となります。
虫歯や歯周病に侵されていない、綺麗な親知らずが残っていることが移植成功への大前提になります。
虫歯に関しては小さな虫歯程度であれば、問題ないことが多いですが、歯周病に関しては大問題になります。親知らずが歯周病に罹患してしまっていると、鍵となる歯根膜にダメージが及んでいるので、移植手術をしても生着しないことが多いです。
ですので、健康に維持されていて、尚且つ噛み合わせに参加していない親知らずが余っていることが大切になります。
次に親知らずの形も重要な要素になります。
なぜなら、まずは親知らずをできる限り損傷しないよう抜歯をしなければならないからです。つまり根の先が極端に湾曲している、分割しないと抜歯ができないような条件であれば、移植歯としては向いていないということになります。
また親知らずが無事に抜けたとして、今度はその歯とよく似たサイズの穴を移植される骨の中に準備をしないと移植することができません。ですので、親知らずの歯の形ができる限りシンプルな形態である方が移植後の歯と骨の適合という点においては有利になります。
移植をした後の歯は基本的には歯の神経の治療を行わなければなりません。この点においても根の形態が複雑になると、根管治療の成功率が悪くなってしまうので、歯根の形態は単純であるほど、全体的な治療の過程において成功率が高くなることがわかると思います。
移植手術に向いている親知らずは一般的には上顎の親知らずだと言われています。
その理由としては
親知らずが大きすぎると移植の手術が難しくなるため、やや小ぶりな上顎の親知らずの方がサイズ感が合うことが多い
埋伏している親知らずは抜歯の際に歯を削らないと抜歯できないことが多いため、埋伏していない上顎の親知らずの方が移植に適している
下顎の親知らずは根の形が複雑であることも多く、移植に向かないことがある
が挙げられます。
つまり埋伏している親知らずでも歯根膜などを傷つけずに抜歯をすることができれば、移植に用いることはできますが、埋伏しておらず萌出している親知らずと比較すると、難易度は高くなります。
抜歯となった移植先の部分の骨の幅は移植成功の鍵となります。
移植する親知らずと、移植先の骨幅が合わなければ骨の削合が必要になります。ただ、骨を削るにも限界があるため、ある程度の骨幅が元々ある方が手術の難易度は低くなります。
ただ、抜歯をするとその後骨は徐々に痩せてしまい、骨量が少なくなってしまうことがあります。ですので、保存不可能な歯の抜歯と歯の移植を同時に行うことが多くなります。
上記でも述べたように移植歯のコンディションや、歯根膜の状態が移植の成功率にはとても大切な要素になります。
その辺りを考慮すると”40歳”を一つの基準として、移植可能かどうかを判断するようにしています。
論文的にも45歳を境に、リスクが上昇すると言われています。
まず年齢が上がるに従って、移植歯が虫歯に侵されていたり、歯周病が進んでいるなどコンディションが低下していきます。また身体の治癒能力も若い頃と比較すると低下する傾向にあるため、移植した歯が生着しない可能性が上がっていきます。
逆に、10代や20代の若い患者様であれば、移植歯の生着率は非常に高いですし、親知らずの歯根が
未だ未完成の場合は、移植した歯の神経がそのまま生かせる可能があるので、非常にお勧めの治療法になります。

移植した親知らずが生着したとして、果たして寿命はどのくらいなのでしょうか??
果たして、ブリッジやインプラントよりも寿命が長いのか??
解説をしていきます。
自家歯牙移植の成功率は論文的には10年で90%以上と報告されて文献もあります。
ただ、患者様の年齢によっても成功率に差はあるようです。
境界線としては患者様の年齢が「40歳前後」が一つのキーワードになるようです。
こちら日本人を対象とした論文では40歳をすぎると失敗のリスクが高くなると報告されていました。
参考文献:Prognostic factors for autotransplantation of teeth with complete root formation
一般的な目安として5〜10年は安定して保つようです。
特に若い患者様で、歯根の未完成の親知らずを移植した場合には寿命は長いようです。
しかし、10年を過ぎると成功率は下降経過にあり、成功率は70%前後になるようです。そうするとインプラントの方が長期的な予後は担保されるという結果になります。
つまり、移植歯がずっと保つことを期待することは難しい可能性が高いですが、その後のインプラント治療を10年でも遅らせることができれば、十分に役割を果たしていると考えても良いのかもしれません。
定期的な歯科検診とプロフェッショナルクリーニング、正しいブラッシング習慣、禁煙の重要性。移植歯も天然歯と同様に歯周病や虫歯で寿命が縮むため、セルフケアと医院でのメンテナンスの両立が不可欠。
当院はインプラント専門の歯科医院ですが、できれば特に若い患者様に関してはインプラントが必要になる年齢をできる限り遅らせることができればと考えております。
なぜなら、インプラントが世界で臨床的に使われるようになってから、まだ50年程度しか経過していないので、予後が読めないこともあることが現実です。
そこで余っている親知らずがあれば上手にその歯を二次利用して、インプラント治療の開始を10年でも15年でも遅らせることができれば、移植にチャレンジする価値はあると思います。
移植した親知らずが生着した場合には歯の矯正をすることもできますし、非常に可能性があります。
歯のサイズ感やコンディションによって、適応かどうかの判断は必要ですが、ぜひ一度ご検討いただければと思います。

| 年代・性別 | 30代・女性 |
| 治療のリスク・副作用 | ・移植した歯が生着しないこともあります。 ・根管治療後に痛みを伴います。 ・治療後のメインテナンスを怠ると歯周病になる可能性があるので、定期的に歯科医院で口腔ケアが必要になります。 |
| 治療期間 | 約6ヶ月 |
| 治療費用 | 総額:31.9万円(税込み) 内訳: ・歯の移植術:16.5万円(税込み) ・歯内療法(単根歯):3.3万円(税込み) ・セラミック治療:11万円(税込み) ・埋伏智歯抜歯:1.1万円(税込み) |
実際に当院で親知らずの移植を行った患者様になります。
この患者様は年齢的にも30代前半とお若く、できればインプラントのタイミングを遅らせることができればと考えました。
この方の場合は下の親知らずが埋まっていたのですが、周りの歯根膜を傷つけることなく抜歯ができるだろうと判断したため、下顎の親知らずを移植に用いました。
決して簡単な症例ではなかったですが、とても良い結果を得ることができました。
術後3年程度経過していますが、問題なく過ごしていただいています。
こちらの症例について詳しくはこちら:歯が折れて抜歯になった部位に、埋まっている親知らずを自家歯牙移植することでインプラント治療を免れることができた症例

親知らずの移植はデメリットの少ない治療のようにも見えますが、メリット・デメリットについてまとめておきます。
インプラントは歯根膜がなく骨に直接結合するため、噛んだ時の感覚がやや異なることもありますが、移植した歯は歯根膜があるため食べ物の硬さや歯触りを感じ取れる、天然歯に近い感覚が得られます。
インプラントのメリットと同様に、隣接する健康な歯を削る必要がなく、また入れ歯のようにバネをかける歯への負担もない治療法になります。
インプラントと違い、歯根膜がある移植歯は他の天然歯と同様に矯正力で移動できるため、将来的に歯列矯正を行う選択肢が残ることがあります。
インプラント治療が原則自費診療であるのに対し、親知らずの移植は一定条件を満たせば、健康保険が適用される場合もあります。
親知らずの移植は決して簡単な処置ではありません。
歯根膜を傷つけずに抜歯する外科技術や、感染管理の知識が求められます。またネジの入る小さな穴を骨に空けるだけで良いインプラントとは違い、大きな親知らずに適合するような骨の穴を空ける必要があるため難易度は高くなります。
インプラントは虫歯にならないですが、天然歯を使う歯の移植は虫歯のリスクがある。
噛み合わせなどもきちんと確認する必要があるため、定期的な検診は必要になります。
上記にも述べたように歯の移植の5年後残存率は約90%と言われています。それと比較して、インプラントの5年後残存率は約95%と言われており、長期的な成功率という観点ではインプラントの方がやや有利であると言えます。ただし、移植歯はインプラント治療を先送りにできるという大きなメリットがあるため、一概にどちらが優れているとは言えません。
今までの内容を読んでいただいて、親知らずの移植についてはかなり詳しくなられたと思います。
では、最後に実際に手術を行なっていく際の注意点などについて解説していきます。
手術後のお痛みは一般的には術後2〜3日がピークで、その後1週間程度で大幅に改善していくことが多いです。
処方された鎮痛剤をきちんと内服していれば、痛みのコントロールは可能になります。
また、移植する歯を抜く時の状況(萌出しているか、埋伏しているか)によって、手術の侵襲は異なるため、術後の痛みのでやすい期間は若干の違いはあるとあります。
術後の腫れも痛みと同じような経過を辿ることが多いため、術後2〜3日がピークで、その後1週間程度で大幅に改善していくことが多いです。
術後に一番気をつける必要がある点は、移植した歯に外力が加わらないように食事等を摂ることです。
移植直後には移植歯が揺れないように、縫合糸や細い金属の線で歯を固定するようにします。この期間に歯が動かないように調整することが、移植手術の成功の鍵となるため、硬い食事を摂らないようにすることが大切です。
ですので、手術当日〜翌日は流動食を中心にして、1週間程度は軟らかい食事にすることが大切です。
また一般的な外科処置の術後の注意事項と同様に、痛みがある期間は激しい運動・飲酒・喫煙を控えることが大切です。

論文のデータを読み解くと、やはり移植歯が一生使える可能性はやや低いようですが、若い患者様のインプラント治療を10年でも遅らせることができれば、次のインプラント治療はより安心になります。
将来のことは中々分からないですが、そこまで先のことを見越して治療計画を立てることができると、患者様に必要なインプラントの本数を減らすことができるのではないかと考えています。
インプラント治療も非常に素晴らしい治療ですが、なんでも抜歯してインプラントにするのではなく、有効利用できる親知らずが残っているようであれば、二次利用することも一つの選択肢として考えても良いのではないでしょうか。
抜歯が必要だと診断されて困っている方。
インプラント治療を勧められて迷っている方。
ぜひ一度LOHASデンタルクリニックへご相談にいらしてください。

福居 希(医学博士、口腔外科認定医)
大阪医科大学口腔外科で口腔外科認定医および医学博士を取得した。またアメリカのカリフォルニア大学(UCLA)のインプラント科へ留学し、インプラント治療を学んだ。
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